−−−バン!
 

 何かが扉にぶつかったかと思うと軽々とぶち破って、人間全てに幸せと試練を与える神が祭られているらしい神聖な教会に、人間最大の天敵とされる愚劣で醜悪なモンスターが侵入してきた。
 

 漆黒の毛並みで犬のような形をしているソレは、犬の何倍も大きく、隣で冷たい目をして泰然としている女の子なら軽々丸呑みできるだろう。
 

 真っ赤な目で俺達を確認すると身震いするように雄叫びをあげた。耳元で叫ばれたら鼓膜が破けるんじゃないかと思うほどの大声。すぐに同じようなモンスターが数匹集まってくる。確かこいつらにも『ヘルバウンド』だったか『ブラックファング』だったか、しっかりとした名前があったはずだが、覚えていない。とはいえ、無いと色々不便なので今は『大犬』でいいだろう。
 

 ハッキリ言ってしまうと、こんな大きくて強そうなヤツら一匹も倒せる自信が無い。
 

 とはいえ、ここで引いたら格好がつかない。女の子は守るものだと常々クレイに言い聞かされたのだ、破ったら今度会ったときに何をされるかわからない。
 

 愛剣を構える。震えてはいなかったと思う。
 

「邪魔」
 

 女の子は俺が勇猛果敢に突っ込もうとするのを冷たい声で遮り、数歩前に出た。仲間が全員集まったのか、それとも女の子が発する凄絶な殺気に身の危険を感じたのか、大犬達は間合いを詰めながら女の子を要に扇形をとる。非常口として使おうと考えていた数少ない窓は大犬達にの後方にあるため、完全に出口を塞がれるかたちとなった。邪魔者扱いされた俺は渋々といった感じで後退するが、内心は安堵で一杯だ。
 

 一匹の大犬が正面から突撃した。せっかくの扇形だと言うのに他の大犬はただ静観しているだけだ。まず一匹で相手の力を図ろうとしているのかもしれない。女の子が口を動かしながらそっと杖を振ると大犬達より一回り大きな氷の塊が現れ、突進してくる大犬の上に落ちる。『グシャッ』と嫌な音がしたと同時に、圧迫された大犬の身体が変形して氷の下から飛び出てきた。紅い血の海が出来る。
 

 思ったよりあっさり終わったなと思ったのも束の間、いつの間にか二匹の大犬が駆けていた。女の子がさっきよりも少し長く詠唱し、杖を振ると、今度は鋭く尖った氷の矢が多数飛んでいった。大犬はあの大きな図体で華麗な動きを見せ、氷の矢をいくつかかわしたものの、ハイスピードで大量に飛んでくる氷の矢を全てかわす事は出来ず、いくつもの大きな穴を身体に空けその場に倒れこみ二匹とも息絶える。
 

 静寂。残りの大犬は唸り声をあげているものの、襲ってくる様子は無い。実力の差がわかったようだ。さっきの行動は何らかの囮作戦のようだったが、ああもあっさりやられては囮の意味も無い。
 

 この連携と学習能力からして中級クラスのモンスターだろう。『中級って言ってもこんな女の子にやられるなんて大した事無いな』なんて思う一般人が多そうな光景だが、決してそうではない、本当にあの女の子が強いのだ。特性やいくらかの能力差はあるが、中級一匹でも素人ばかりの小さな村なら滅ぼしてしまう事が出来る。その中級を一人で次々と倒すのだ。やっぱりこの子はタダモノじゃない。いや、それ以前に中級がこんなに多い群れなんて滅多にお目にかかれない。かかりたくない。
 

 女の子も身構えてはいるがこちらから仕掛ける気は無さそうだ。確かに、この状況で下手に動けば隙が出来るだろう。相手の出方を見る戦法か、俺に女の子ほどの力があればそうしているだろうけど、時間をかければ更に敵が集まってくるというリスクもある。いや、敵は中級モンスターだ、たぶんこのまま膠着状態を続けて仲間が来るのを待つ気だろう。女の子もその事に気が付いているのだろうが、下手に動けずどうしようもないのだ、そう、つまり俺に助けを求めているのである。ここは俺が何らかの行動を起こし膠着状態を断ち切りモンスターの群れを壊滅させ二人で町を脱出しなければ。
 

 何か無いかとあたりを見渡してみるが、変わったところは特に無い。ただ、丁度女の子と大犬の中にさっきまで立っていた燭台が何らかのショックで倒れているくらいだ。
 

「げッ!?」
 

 しばらく床に揺らめく炎をぼんやり眺めていてその危険性に気がついた。が、時すでに遅く、炎は床に引火した。まだ規模の小さい火災だが、濛々と黒煙が立ち込める。女の子と大犬達はそれを気にしていないかのようににらみ合い続けている。
 

「まっずいぞ・・・・・・このままじゃ・・・・・・」
 

 炎はどんどん激しさを増すが、まだ消火できないほどでもない。バッグを叩きつけて消火しようと火災現場に急行する。だが、そんな俺の善良で隙だらけの行動を見過ごしてくれるほど大犬達は甘くなかった。突っ走ると同時に、一匹の大犬が俺の向かう方向に火の玉を吐いた。結果、火に油を注ぐどころか火に猛火をぶつけてしまう事になり勢いが増すどころか、床が衝撃で壊れ、燃え尽き一気に炎上する。
 

「んな・・・・・・ッ、コイツら火を吐くのか!」
 

 火を吐くと言う事は多少たりとも炎に対する耐性があるだろう。このまま膠着状態が続けば俺達は焼け死ぬが、多少の炎耐性がある大犬達は生き残るということで、しかも大犬達側に出口があるので教会が崩れても大犬達は脱出が可能なのである。もしかしてコレを狙って火を吐いたのかもしれない。さすが中級は脳の出来が違う。
 

 感心している場合じゃないな。火を消すのはもう無理となった今、さっさと大犬達を倒すか別に出口を探すしかない。
 

 もう一度周りを見渡すが、やはり出口になりそうな場所は無かった。
 

「ゴホッ、煙が・・・・・・肺は弱い方なのに」
 

 黒煙に巻かれ目が痛くなり喉が熱くなる。そういえば煙を吸いすぎても死ぬんじゃなかったか? 煙を吸うまいと息を止めてみるがすぐに苦しくなる。どうしろっていうんだ。
 

 どんどん炎が激しさを増す中、せめて通気孔を作って酸素を確保しようと考えるが、窓に辿り着くには少なくとも一匹は大犬を倒さなければならない。いや、俺が突っ込むと同時に何匹かが俺に向かって襲ってくるのは確実だろう。
 

 なら天井の採光窓をぶち壊そう、壊すために投げる物は祭壇の像だ。四つも壊した今、あと一つや二つ変わりはしない。どうせモンスターが攻めてきたんだ、全部ぶっ壊されるだろう。
 

 剣を鞘に収めるかわりに槍を持った戦士の像を手に取り、全力で投げようと何年ぶりかの投球フォームを取り天井を見上げると、採光窓の向こうに黒く蠢く物体を見つけた。絵で黒い塊としか見て取れないが、その塊はかなりの大きさで、音を立てないようにゆっくりと動いているようだ。自分が子供の頃に覚えさせられた、間違ったマヌケな投球フォームをしている事も忘れて黒い塊の観察していると、それは女の子の真上で止まった。
 

「・・・・・・まさか!?」
 

 深く考えているうちに薄くなった黒い塊、手に持った像が損傷するだろう事も気に留めず放り投げ、俺は女の子に向かって走る。だんだん濃くなる天井の影、黒煙で息苦しくなっていく中全力で走るが間に合うかどうかわからない。『バリン』と採光窓が割れ、一匹の大犬と無数のガラスの破片が女の子に降り注ぐ。女の子も、雄叫びを上げ降下してくる大犬に気づき詠唱を始めようとするが、間に合わない。初めて焦りの表情を見た。
 

 何かが降って来る事にいち早く気づき、女の子を危機から救おうと全力疾走していた俺は、勢いを落とす事も出来ずに女の子に抱きつくようにぶつかり、床に倒れこむ。女の子に衝突した時の衝撃も、女の子に体重が掛からないよう手を床につき四つん這いの格好をした時の腕の激痛もかなりのものだった。
 

「いつつ・・・・・・だ、大丈夫?」
 

 腕の激痛に耐えながら引きつってるだろう顔で訊ねるが、予想以上に近い距離で無表情な顔をしている女の子を直視し、頭に血が上る。純真無垢な健全男子として仕方ない事なのだが、今はこんな事をしている場合じゃない。
 

 すぐさま立ち上がり、剣を正眼に構える。既に真正面に居る天井から降って来た大犬だけでなく、女の子と睨み合いを続けていた大犬達も、体勢を崩した今がチャンスと言わんばかりに駆けていた。
 

 だが、大犬が天井に穴を開けてくれたおかげで煙が逃げていく。これで窒息死の確率は大幅に下がり、目の痛みも楽になった。
 

 まず、一番近い俺達を窒息から救ってくれた大犬が、鋭く尖った爪を天高く振り翳し飛びかかってくる。振り下ろした爪を愛剣で受け止めるが、重い衝撃に膝を床につく。
 

「その体格で体重を掛けるのは卑怯なんじゃ・・・・・・」
 

 抗議をしてみるが通じるわけなく、グルルルと唸り声を上げながら更に体重を加えられ、ジリジリと爪に押されて剣が顔に近寄ってくる。このままじゃ自分の愛剣に命を絶たれる事になってしまう。
 

 恩知らずな愛剣が俺の額の皮を斬ろうとしやがったその時、後ろから大犬を目掛けて大きな氷の矢が飛んできた。見事に大犬の顔を潰した氷の矢は、勢いを弱めぬまま大犬を押し退けてくれた。女の子が援護をしてくれたんだろうが、礼を言うどころか後ろを確認する暇もなく次々と大犬が飛び掛ってくる。
 

「勝てる気がしない!」
 

 高々と敗北宣言をしながら剣を振るう。大犬の爪と『ギン!』と音を立てぶつかり合う。
 

 自慢の愛剣は俺に似つかわしくなく、世界有数の名剣だ。鈍らな剣なら刃と刃でぶつけあっても真っ二つにする事が出来るほどで、薪割りも下手な斧よりラクに出来る。その剣で思いっきり斬りつけられて、傷一つ付かない大犬の爪・・・・・・これは高く売れそうだ。いやそうじゃなく、この爪で切り裂かれれば一溜まりも無いだろう。
 

 他の大犬の咆哮や、『ビュン』何かが高速で飛んでいく音、壁や床を容赦なく破壊する音に血肉が飛び散る嫌な音。さっきから鬩ぎ合っているビッグな大犬のビッグな顔に遮られよく見えないが、他の大犬が俺に襲い掛かって来ないのは女の子が魔法で倒してくれているからなのだろう。
 

 唸り声を上げながら、さっきの大犬と同じく体重を掛け俺を押しつぶそうとしてくるが、同じ手は食わない。ふっと力を抜き、押しつぶされた思わせ懐に入り込み、腹部を切り裂く。名付けて『秘技・消える斬撃』である、今名付けた。さっきとは違い、膝を折っていなかったからこそ出来た技だ。
 

 切り裂いた腹から腸や血液が溢れ出てくる前にその場から退き、崩れ落ちる頃には女の子が相手をしている多数の大犬の一匹を側面から斬り付けていた。自分でも驚くほど鮮やかな行動だ。大した技術の無い俺も、魅せる相手がいると能力が向上するようだ。チラッと女の子を一瞥するが、詠唱と発射する魔法の軌道修正で俺の事など全く気にしてなかった。ほんの少し悲しかった。
 

 大犬達はもう俺など死んだものだと思っていたのか、俺に関して無頓着だったので、もう二匹背後と側面から斬りつけ苦も無く倒す事が出来た。そこまでやられてようやく俺の存在に気が付き、二匹がこちらに向かってくる。
 

 もちろん、俺に同時に数匹の大犬を相手にする実力など能力が向上した今でも絶無である。
 

「一匹ずつ! 一匹ずつかかってこい!! 二対一は騎士道に反するんだぞ!?」
 

 モンスター相手に錯乱気味に叫ぶ。傍から見ればただの馬鹿である。
 

 直進してきた大犬達は途中で左右に別れ、俺を挟むように襲ってくる。正面から二匹を相手にするのも無理なのだ、挟み撃ちにされようと変わりない。いや、逆に・・・・・・挟み撃ちの方が都合がいいかもしれない。
 

 二匹の距離がある程度開いた後、一匹に向かって突っ走る。ほんの数秒かもしれないが、一対一で戦う事が出来る。その間にどうにか倒すのだ。そうするしかコイツらに勝つことは出来ない。
 

 両者が全速で距離を詰めるだけあり、すぐに正面の大犬の攻撃圏内に入ったらしく、牙を剥き腕を振り上げ吠えながら飛躍してくる。大犬の腕から爪の先までの長さと俺の腕から剣の先までの長さは、大犬の方が一回り長く、力も向こうの方が断然上だ。しかもこっちには時間が無い。一撃で決めなければならないのに、このハンデは辛いものがある。
 

 迫ってくる爪を気にすることなく突っ込む。立ち止まろうと進もうと死ぬのなら一か八かの賭けに出ようじゃないか。
 

 高く跳んでくる大犬、空中では方向転換も出来ず直線的な攻撃しか出来ないはずだ。今までにも何度か受けた跳躍攻撃、距離と速度と角度からある程度の落下地点と攻撃範囲は読めた。学習能力だけなら俺だって中級には負けない。
 

 落下地点の後ろに回るのは間に合わず、下に入り込むのも危険すぎる。となると、落下と同時に振り下げる爪をなんとか回避し、一撃で息の根を止める。これしかない。
 

 どんどん近づく距離、ついに途轍もない重量を課され振り下げられたその腕から伸びる大きく鋭利な爪が見事な残像を残しながら俺を襲う。大きく動くと体勢も崩れ、攻撃時に力が入らないので右に軽く飛び跳ねるだけにする。それだけで完全にかわせるものだと思っていたのだが、左腕と左頬に薄く切られる。威力だけでなくスピードも半端ではなかった、攻撃範囲を予測出来なかったら確実に真っ二つだっただろう。
 

 右に回避した結果、俺は大犬の首がよく見える位置にしゃがみこんでいる形になった。
 

「ハアッ!」
 

 膝をバネに渾身の力で首を目掛けて突き上げる。今から大犬が腕を振り上げようと間に合わない。
 

 −−−勝利。
 

 その二文字が頭に浮かんだ瞬間、大犬は大きく首を曲げ、剣を噛み止めた。
 

「んな!?」
 

 驚きながらも剣を引き抜こうとするが、がっちりと噛まれ固定されている。大犬を蹴っ飛ばしてでも引き抜こうとするが、微弱たりとも動かない。形勢逆転だ。
 

「放せ! 放せって! チクショウ、毒でも塗っとくんだった」
 

 剣を引き離そうと必死に蹴っ飛ばすが、毛が厚く全く通用しない。剣を折ろうと顎に力を込める大犬だが、名剣だけあり、そう簡単に砕けはしない。
 

 背後から近づいてくる体型に見合わない軽い足音、振り向くのが怖いほど近い距離。さっき俺を裏切ろうとした愛剣を見捨てて逃げようかとも思ったが、そうすると剣を咥えているほうの大犬も追ってくるだろうと思いとどまる。が、このまま一匹の大犬を押さえ込めたとしても、もう一匹をどうにかしないと結局は死を待つのみだ。
 

 背後で急激に膨れ上がった殺気、反射的に身体が剣を放し転がろうとするが間に合わないだろう。無駄だとわかっていても研ぎ澄まされた爪に対して、発達しているとは言い難い背筋で抵抗しようと硬く目を瞑り身体を強張らせる。身体が真っ二つになるか、はたまた中途半端に傷を負わされ激痛を味わう事になるかの二択ならば、俺は真っ二つの方がいい。
 

 ベチャッと音をたて背中に衝撃が走る。思ったより小さな衝撃で、痛くは無かった。手に持っていた大犬に噛みつかれ重みを増した剣も随分軽くなった。真っ二つに裂かれ痛みも無しに殺されたのかとそっと目を開くと、目前で愛剣を固定していたはずの大犬の下半身が巨大な氷で潰されており、振り向くと後ろにいたはずの大犬も脊髄に沿って真っ二つにされ、無惨に横たわっていた。
 

 その後ろに杖を構えたままの女の子がいる。
 

 唐突に猛火の音しか聞こえなくなった教会。辺りを見渡すと一面血の海だった。先ほどの二匹と同じく殆どの大犬達は潰され、裂かれ、子供が見たら泣き出しそうな殺されかたをしている。強力な魔法でのダメージは大抵こういうものなので気にするほどでもないのだが、これを一人の少女がやったと言う事には対しては驚愕せざるを得ない。
 

 一歩踏み出すごとにペチャペチャと音を立て血が飛び散る。厭わしさを感じながらも女の子の方に向かう。俺の到着を待たずに、杖を下ろし祭壇に向き直った女の子は何かを考えているようだった。共通の敵を目前に仲間意識が急上昇し、何ら態度が変わる事を期待していたのだが、全く変化が無い。
 

「助かったよ。ありがとう」
 

 ついに炎が教会を二分し、俺達の居る位置と出入り口を分断した中、俺は女の子の真後ろに着くと同時に礼だけは言っておいた。反応は無い。
 

 一旦は片付いた大犬だが、外でまだモンスターが雄叫びをあげているのが聞こえる。予想はしていたが、アレで群れ全部というわけではないようだ。
 

 さっきの鳥型のモンスター、今の犬型のモンスター、多種類のモンスターが混じった群れはかなりの大きさである。少なくても数十匹、多ければ数百匹の群れにもなる。女の子と俺が倒した数だけでも三十を超え、ソレを遥かに凌ぐ雄叫びと奇声が外で飛び交っている。いずれその全部がこの教会に踏み入ってくるだろう。いや、その前に火災での教会崩壊の方が先か。
 

 諦め半分で燃え盛る炎に向き直り溜め息を吐く。
 

 でも、不思議と平然としていられた。元々旅に出た時から死は覚悟していたし、何度も死に直面しているので慣れたのかもしれない。それに、カッコイイじゃないか、女の子を守って死ねるなんて。まぁ俺が守ってもらってばかりだったけど、女の子の窮地に駆けつけるなんて、やはりカッコイイ。
 

 そう自分に言い聞かせ、更に溜め息を吐いた時、背後で轟音と共に砂埃が立ち込めた。
 

「ゴホゴホ・・・・・・ッ! なんだ!?」
 

 まだ大犬が残っていたのかと振り向き剣を構えるが、砂埃の中に見える影は女の子の物だけだった。思いのほか早く砂埃が晴れたのも当然、さっきまで祭壇があったはずの場所に何も、壁すらも無くなり、その先に深い森が見えている。女の子はそこに最初から何も無かったかのように大穴を潜り森の中に消えようとする。多くの人間が信仰し、壁に傷一つ付けただけでも信者にボッコボコにされる教会の祭壇を跡形も無く消し去った女の子の背中を、俺はポカンと口を開け見つめていた。
 

 やってくれる。出口が無ければ作れば良いと言うわけか。でも、考え方とやり方が強引すぎだ、よほど暴力的な性格なんだろう。傍に居ればいずれ俺も殺されるんじゃないか? ついて行くかどうか、悩むところだ。
 

「グギャアアア!」
 

 炎の向こうから聞こえてくるモンスターの奇声。俺は走って女の子の後を追いかけた。

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